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#07 Main Visual / Kazunori Hirose, Chief Manufacturing Officer (CMO)
広瀬 和紀
上席執行役員(当時)
チーフマニュファクチュアリングオフィサー(CMO)

テルモは、製品、供給、サービスを含めたトータルクオリティーの向上を目指し、160以上の国・地域へ高品質な製品を安定的かつ迅速に供給できるサプライチェーンを構築しています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行が続くなかでも、この基本姿勢に変わりはなく、切れ目のない製品供給を実現しています(2021年4月末時点)。

テルモの生産を担うのは、全世界に32拠点ある工場です。2019年度にはチーフマニュファクチュアリングオフィサー(CMO:Chief Manufacturing Officer)という新たな機能を設け、資材調達から生産、供給に至るまでのサプライチェーンを一気通貫で統括し、モノづくりの力をグループ横断的に管理・活用する体制を整えました。刻一刻と状況が変わるコロナ禍では、いかに新鮮な情報をタイムリーに共有できるかが、のちの供給能力に響いてきます。その意味で、このグローバル体制は重要な役割を果たすことになりました。

知識を横展開し、皆で生産現場を守る

私の元に未知のウイルスによる感染症発生の第一報が届いたのは、2020年1月のことでした。情報源は、中国・杭州にある工場のアソシエイト(社員)からの報告です。過去のパンデミックの経験や、翌月には旧正月でアジア圏の大勢の人が移動する可能性があったことから、この感染症も世界中に広がるおそれがあると感じました。テルモの工場の中には、千人単位が勤務するところもあります。そこで感染が発生すると、操業停止を余儀なくされる可能性があるため、すぐに他の工場や関連部門へ連絡をとり、感染予防策の検討や影響範囲の予測を始めました。

真っ先に行ったのは、初動を決めるための社内ヒアリングです。実は杭州工場には、重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行などの過去の経験から得た感染症対策のノウハウがありました。そこで、どのような態勢を敷けばよいか、今後どのような事態が想定され、そのために何の準備が必要か、現時点で困っていることはないかなどをヒアリングし、即座に他の生産拠点へ共有しました。工場内で感染リスクが高い場所の一つに食堂があるという情報も、そのとき入手したものです。これを受け、世界的な感染拡大が本格化する前の2020年2月ごろには、国内の一部の工場で早くも食堂へのアクリル板の設置や食事時間の時差導入が始まっていたと記憶しています。

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元来よりテルモには、医療用製品を取り扱っているという特性上、環境や製品を清潔に保つことへの強い意識があります。コロナ禍ではこれが幸いし、平時のクリーンな環境維持への取り組みにさらなる感染防止策が加わっても、さほどの困難なく、また国や地域による差も生じず、皆がスムーズに対応できたと感じています。

資材調達から生産、供給までの流れを途切れさせない

従来のサプライチェーンにおけるBCP(事業継続計画)は、主に自然災害を想定したものでした。つまり、局所的に電気や水道、生産設備などのインフラ面で被害が出た際の対策に重点を置いて、その復旧に要する期間も比較的短期を想定していたのです。しかし、今回のパンデミックは全世界で一斉にウイルスが拡散するという近年にはないスケールで、その影響も終わりが知れないほど長期化しています。生産設備には被害がないのに、ロックダウンによりアソシエイトが出社できずに生産が滞るおそれが出るなど、シナリオにない事態も多く発生しました。その都度、各国政府や自治体に働きかけることで理解と支援を得つつ、工夫しながら生産を続けています。

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部材調達や物流の面でも、サプライヤーの生産停止や生産減、航空便の減便、船便の運賃値上げなどにより非常に苦しい時期がありました。それでも、テルモが市場の要求に大きな後れを取ることなく製品をお届けできている背景には、2つの要因があると考えています。一つは、やはり情報共有です。調達、生産、サプライチェーンの機能ごとに、各拠点の担当者が集まり、週次でコミュニケーションをとる場を設けました。知恵を絞り支援し合うことで、新たな購買元や代替ルートの確保に努めています。もう一つは、平時から各地域に適切な量の在庫を備蓄していたことです。この備蓄を有効に活用できたことも、供給体制の維持に大きく寄与することになりました。

医療を支えるために、迷いなく判断する

このたびのパンデミックでは、全世界かつ長期的な影響を見据えた供給体制の構築の必要性が改めて認識されました。今後はBCPを再定義したうえで、サプライチェーンの可視化、戦略的な在庫の備蓄、複数購買ルートの確保、生産場所を複数に分けるなどの対策を一層強化していきます。

テルモが作っているのはモノ。ただし、これらは誰もが供給されるまで待っていられるものではありません。患者さんの命に直結する製品もあるからです。この1年半を振り返ると、コロナ禍でも安定供給に大きな支障をきたさず、医療現場に製品を届け続けられた最大の要因は、私たち一人ひとりの行動に迷いがなかったことだったのではないかと感じます。製品を供給し続けなければ止まってしまう医療がある、世界中の医療従事者や患者さんのために負うべき責任があるという思い。どの国や地域にいても、アソシエイトはこれらの信念を持ち、全力を尽くしています。皆が日ごろから同じところを目指しているため、突発的に危機が発生しても、指示を待たずに自ら素早く最善の判断ができます。国境などの隔たりもなく、皆で支援し合う風土が培われている――これはとても心強いことです。

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これまでもこれからも、テルモは、サプライチェーンを担うグループ内のグローバルネットワークを活用し、安定供給を続けてまいります。感染リスクと隣り合わせの医療現場でCOVID-19と闘い続けている医療従事者の皆様や医療を待つ患者さんへ、高品質な製品を届け続けられるよう、グループ全体で連携していきます。