栄養・食事

2.加齢と栄養のこと

栄養・食事

加齢にともなう食事の変化

個人差はありますが、人間は年齢を重ねるにつれて食に対する関心が薄れ、食事を抜いたり、毎日同じものを食べ続けるなど、健康を維持する食事バランスを失いがちです。その背景には、運動量が低下しエネルギーの必要量が減った、内臓機能が低下して消化・吸収がうまくできず食欲が失せた、視覚や味覚が衰え食事を楽しめなくなった、など様々な原因が考えられます。なかでも「噛む、飲み込む」力の衰えは食事そのものを億劫に感じたり、窒息するのではと不安になり食事を避ける要因になってしまいます。

なぜ、飲み込めなくなるの?

普段、無意識に行っている「食べる、飲み込む」動作は、とても複雑な口と喉の動きを伴っています。
口に入った食べ物は、まず細かくかみ砕かれ、唾液まじりの「食塊」がつくられます。このとき、左右の歯でよく噛めるように舌が上下左右に動き、食べ物をあちこちに動かしながら唾液と混ぜながら喉の奥へと食塊を送りだします。

次に、食塊を喉の奥から食道(胃に続く食べ物の通り道)へ送り込む動作が続き、舌をしっかりと口の上に押しつけて口のなかの圧力を高め、食塊をのどへと送り込みます。このときに食道と隣り合わせの気道(肺に続く空気の通り道)に食塊が滑り込まないよう、気道の入り口をふさぐ「喉頭蓋(こうとうがい)」というフタが反射的に閉まり、食塊が食道から胃に送り込まれ、消化・吸収されていきます。

ところが、あごや歯の具合が悪くうまく噛めない状態では、唾液の分泌が少なくなるほか、口のなかの感覚が鈍くなり、舌を上手に使うことができません。また、喉の周辺の筋力が衰えると喉頭蓋が閉まるタイミングがずれ、食塊が気道に入ってしまう危険性が高くなります。この上手く噛めない、飲み込めない状態を「嚥下障害(えんげしょうがい)」とよびます。また、食塊や唾液が間違って気道に入りむせてしまう、あるいはのどの周辺に溜まった唾液がじわじわ気道から肺に流れていく状態を「誤嚥(ごえん)」といいます。

嚥下障害は脳卒中の後遺症から生じることが多いのですが、特に重大な病気がない方も、歯を失って食べる動作が億劫になったり、食に対する関心を失い栄養不足の状態が続くうちに、筋力が衰えて「噛む・飲み込む」動作が難しくなり嚥下障害を起こすこともあります。

食が細くなっているところに嚥下障害が重なると低栄養がさらに進んでしまう危険性があるので、食べたいという気持ちをうながし、飲み込みやすい高エネルギーの栄養補助食品を利用するなどの対応が必要です。

コラム飲み込みやすい食品、飲み込みにくい食品

口のなかに障害があり、噛めない、飲み込みにくいときは、ゼリーや卵豆腐、あるいは茶碗蒸しなど舌でつぶせるやわらかいものが食べやすいでしょう。逆にのどに詰まらせやすいピーナツや豆類、線維が多い、たけのこやもやし、パサパサした食パンやカステラ、また、苔やウエハース、お餅など上顎やのどに張り付きやすいものは避けてください。意外なところでは、水や汁物など「サラサラ」した液体は気道にするっと滑り込んでしまうので、誤嚥の原因になります。液体には「とろみ」をつけると覚えておいてください。つるっとすすれるところてんや寒天ゼリーなども注意が必要です。

低栄養はなぜ怖い?

栄養不足(低栄養)の影響は、老化にともなう変化の範囲を超えた筋肉量や骨量の減少として表れます。筋肉量が低下すると日常の活動に支障がでるため外出を控えるなど活動量が減り、次第に食欲が失われていきます。このため、エネルギー不足と生命の維持に不可欠なたんぱく質やビタミン、ミネラル分の不足が生じ、さらに筋肉量が低下するという悪循環におちいってしまいます。

この悪循環は「フレイル(虚弱)・サイクル」とよばれ、筋力の低下から転倒、骨折リスクが高まるほか、慢性疾患の悪化などから要支援・要介護状態になる可能性が高くなります。低栄養状態は健康寿命を縮め、ご家族に介護負担が生じる大きな問題なのです。

ご家庭で低栄養を予防・改善したいときは、毎日の食事の一工夫のほか、市販の高エネルギー栄養補助食品などを上手に利用しましょう。

ひとくちで高エネルギーと必須栄養素を補給する

低栄養を改善には、①三大栄養素のたんぱく質、脂質、炭水化物のほか、ビタミン、ミネラルをバランス良く食べる、②三度の食事にこだわらず、間食を上手に取り入れる、③飲み込みやすさに配慮し、食材を小さくきざんだり、とろみをつける、④高エネルギーの栄養補助食品を利用する、などの工夫が大切です。

このうち、高エネルギーの栄養補助食品は食が細くなった高齢者にエネルギー源と必要な栄養素を補給するために開発されたもので、一般に栄養調整食品、高エネルギー栄養食、濃厚流動食という名称で呼ばれています。

ひとくちあたりのエネルギー量を高め、各栄養素の配分が工夫された総合栄養食、あるいは飲み込みやさに配慮したとろみ付きの製品や特定の栄養素を強化した製品など種類も豊富になり、大手スーパーやネット通販なで入手しやすくなっています。

  • 濃厚流動食(液状・ゼリータイプ)の特長

    • 栄養素がバランスよく配合されています。
    • 不足しやすいビタミン・ミネラルなどが豊富に含まれています。
    • 一般に、1mL(1g)あたり1〜4kcalに調整されています。
    • 噛めない、飲み込みにくい方でも食べられるよう、半固形やゼリー状のもの、とろみ付きのものがあります。
    • 腎臓病のようにたんぱく質やカリウム・リンの制限が必要な方のために、疾患別に特別な調整がされている製品もあります。
情報公開日:2022年3月31日

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