栄養・食事

1.食事・栄養の基本の「き」

栄養・食事

お家でできる食事・栄養管理

「食べる」ことは生きるために必要不可欠なだけではなく、充実した生活を続けるうえでもとても大切なことです。
普通の食事がとれない期間が長引くと栄養不足から体力が低下するほか、病原菌やがん細胞とたたかう免疫細胞が元気を失って病気にかかりやすくなってしまいます。自分の身体を思うように動かすことが難しくなると、気力も衰えてしまいますね。こうした状況を改善するために、食べ物から意識的に必要な栄養素やエネルギーを摂り、心身の健康を維持・快復する試みを「食事栄養療法」といいます。

大切な家族の健康は毎日の食事が基本です。栄養バランスを考え、食べやすさや飲み込みやすさを工夫してみましょう。特にご高齢者の食事・栄養管理は難しいと思うかもしれませんが、今は様々な栄養補助食品が手軽に利用できます。肩の力を抜いてトライしてみましょう。

五大栄養素と適切なバランス

食物のなかに含まれている様々な成分のうち、特に大切なたんぱく質、脂質、炭水化物(糖質・食物繊維)、ビタミン、ミネラルを「五大栄養素」とよびます。五大栄養素には、①エネルギー源になる、②筋肉や骨、血液など身体をつくる、③身体の調子を整えるという役割があります。

たんぱく質

たんぱく質は筋肉や内臓、皮ふ、血液など身体の組織をつくるうえで欠かせない基本の栄養素です。また消化酵素など生命を維持するうえで欠かすことができない成分の原料でもあります。たんぱく質を構成している「アミノ酸」は20種類あり、そのうちの9種類は身体のなかで合成することができず、必ず食事で補う必要があることから「必須アミノ酸」と呼ばれています。栄養補助食品には、栄養価や消化吸収を考えた次のようなたんぱく質やアミノ酸などが含まれています。

  • コラーゲンペプチド

    コラーゲンは身体のたんぱく質の約30%を占め、全身に分布しています。コラーゲンペプチドは、コラーゲンの一種であるゼラチンからつくられ、消化吸収しやすいように小さく低分子化しています。
  • 乳清たんぱく

    牛乳のなかに含まれる成分で、栄養価が高く、必須アミノ酸が全て含まれています。運動で失われやすいBCAA(分岐鎖アミノ酸)の含有量も多いことが特長です。
  • 大豆ペプチド

    大豆たんぱくは栄養価の優れた代表的な植物性たんぱく質で「畑の肉」とも呼ばれています。大豆ペプチドは大豆たんぱく質を消化吸収しやすいように、酵素で分解し、小さく低分子化したものです。
  • カルニチン

    リジンとメチオニンという2つのアミノ酸からなる成分で、通常は肝臓や腎臓でつくられます。ところが加齢とともにつくる能力が低下し、60代では20代の時のおよそ60%にまでに減少するといわれているので食事から補う必要があります。カルニチンは肉類などの多く含まれています。

脂質

脂質は1gあたり9kcalを生み出す効率的なエネルギー源で、細胞やホルモンの材料になる栄養素です。摂り過ぎは肥満や病気の原因になりますが、逆に不足すると様々な障害が生じてしまいます。

脂質の成分である脂肪酸のうち、リノール酸などのn-6系脂肪酸やEPA、DHAなどのn-3系脂肪酸は血中の中性脂肪を下げたり、動脈硬化を予防する効果があることがわかっています。良質の脂質をバランス良く摂りましょう。

  • EPA/DHA

    身体になくてはならないn-3系の必須脂肪酸の一つです。体内でつくることができないので、食事などできちんと摂取する必要があります。EPA、DHAは青魚に多く含まれています。
  • 中鎖脂肪酸(MCT)

    ココナツやパームフルーツなどヤシ科の植物のタネに含まれる天然成分です。母乳や牛乳にも含まれています。中鎖脂肪酸は一般的な油よりも食べた後に素早く分解されてエネルギーになりやすいという特長があります。

炭水化物(糖質・食物繊維)

炭水化物のうち「糖質」は1gあたり4kcalのエネルギーを生み出します。糖質は脳の主要なエネルギー源となる大切な栄養素で、極端な糖質不足におちいると低血糖発作を起こし意識障害が生じることがあります。

一方、食物繊維は最近まで特に重視されていませんでした。しかし、近年の研究から腸内細菌のバランスを整え、お腹の環境を良好に保つために欠かせない栄養素であることがわかり五大栄養素に次ぐ「六番目の栄養素」と呼ばれることもあります。食物繊維には、水で溶ける水溶性食物繊維と水に溶けない不溶性食物繊維があり、それぞれ違う役割を果たしています。

  • 水溶性食物繊維

    水に溶けて、ねばりを増加させます。またグアーガム酵素分解物と呼ばれる水溶性食物繊維は、大腸の腸内細菌によって発酵し、短鎖脂肪酸や乳酸、ガスに変わります。
  • 不溶性食物繊維

    水に溶けず、水分を吸収して大きく膨らみます。便のかさが増すことで、大腸を刺激し、ぜん動を促します。
  • オリゴ糖

    糖質の一種で「難消化吸収性糖質」と呼ばれています。腸内の善玉菌の栄養源として善玉菌を増やす効果が期待できることから、特定保健用食品として認められています。一般的な食品でもお砂糖の代わりや食感の改良を目的として広く利用されています。

ビタミン

ビタミンは他の栄養素がうまく働くための「潤滑油」のような役割を果たす栄養素です。水に溶ける水溶性ビタミンと油脂に溶ける脂溶性ビタミンがあり、それぞれの性質から身体のなかで果たす役割も異なります。ビタミンは身体のなかでつくることがほぼできないため、毎日の食事でコツコツ摂る必要があります。

ミネラル

ミネラルはビタミンと同じく、身体の機能の維持や調整に働く栄養素です。また骨や爪など身体の構成成分でもあります。ミネラルも過剰摂取の弊害があるので、食事から摂取することを基本としましょう。

適切な栄養バランスとは

一口に栄養バランスといっても、それぞれの年齢やライフスタイルで適切なバランスは異なります。厚生労働省と農林水産省が共同で開発した「食事バランスガイド」では、主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物の5つのカテゴリーで1日の適切な量とバランスの目安を提示しています。農林水産省や厚生労働省のHPに掲載されている適量チェックチャートで自分や家族の目安をみてみましょう。

適切な栄養バランスとは
  • ※1身体活動量の見方
    「低い」:1日中座っていることがほとんどの人
    「普通以上」:「低い」に該当しない人
  • ※2学校給食を含めた子供向け摂取目安について
    成長期に特に必要なカルシウムを十分にとるためにも、牛乳・乳製品の適量は少し幅を持たせて1日2~3つ(SV)、「基本形」よりもエネルギー量が多い場合では、4つ(SV)程度までを目安にするのが適当です。

食事バランスガイド

食事バランスガイド

エネルギー産生栄養素バランス

エネルギー産生栄養素バランスとは、エネルギー源になるたんぱく質、脂質、炭水化物(糖質、アルコールを含む)が、総エネルギー摂取量に占めるべき割合を示したものです。生活習慣病を予防する観点から2015年版の「日本人の食事摂取基準」で取り入れられたもので、2020年版ではそれぞれの目標値が定められました。
毎日の献立にいかすには最初に肉や魚、豆腐類などのおかずを考えて身体に不可欠なたんぱく質の量と脂質の量を決め、残りのエネルギー分を主食のご飯やパンといった炭水化物で補うといいでしょう。アルコール(お酒)は必要不可欠な栄養素ではないので、ほどほどに。

エネルギー産生栄養素バランス(% エネルギー)

エネルギー産生栄養素バランス

出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準 (2020年版)」

色々な疾患と食事の関係

疾患によっては食事に制限が必要なケースがあります。

高血圧・動脈硬化・心臓病

高血圧など循環器に問題を抱えている方がまず、考えるべきなのは「減塩」です。「日本人の食事摂取基準 2020年版」では、男性の1日の食塩摂取量の目標量が7.5g未満、女性は6.5g未満に引き下げられました。
一方、日本高血圧学会の減塩基準はそれよりも少し厳しく、男女ともに1日6g未満を推奨しています。特に糖尿病や慢性腎臓病がある方は、1日6g未満、できればWHO(世界保健機関)が推奨する1日5g未満を目指しましょう。

糖尿病、肥満、脂質異常症

炭水化物や脂っこいものを食べ過ぎず、間食は避けましょう。また、精製穀物よりも全粒穀物を意識的に摂りましょう。

慢性腎臓病・糖尿病性腎症

腎機能が低下していると、たんぱく質の処理が追いつかず、腎臓に負担が生じます。腎臓の負担を減らすためにたんぱく質の制限が必要です。ただし自己流で制限が過ぎると栄養不良を起こすので、目安としてはたん白尿を認めたタイミングで腎臓内科を受診し、医師や管理栄養士に相談しながら食事管理を行いましょう。

また、たんぱく質を制限するとエネルギー不足を補うために自分の筋肉を分解してエネルギー源にしようとする身体の働きが生じます。いわゆる「自分で自分の肉を食べている」状態でたんぱく質が消費されるため、やはり腎臓に負担をかけてしまいます。エネルギー不足にならないよう、糖質や脂質で不足分のエネルギーを補給する必要があります。

貧血

栄養不足が長く続くと、鉄欠乏性の貧血が生じます。鉄分が豊富な食品をとるほか、鉄の吸収を助ける肉類、魚介類など良質なたんぱく質と新鮮な野菜、果物を積極的に摂りましょう。

便秘・下痢

便秘がちのときは食物繊維が豊富な穀類、野菜、いも類、海藻、きのこなどを十分に摂りましょう。また朝に一杯の冷たい牛乳、冷水を飲むと胃腸が刺激されて、ぜん動運動が生じやすくなります。このほか、適度に脂質をとり、脂肪酸で大腸の運動を促すことも大切です。

下痢が続くときは食物繊維が少なく消化に良いものを食べ、刺激物を避けましょう。また脱水を起こさないようにミネラル分を含んだ経口の補水液を利用するといいでしょう。

情報公開日:2022年3月31日

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