血圧

5.高血圧と脳・心・腎の病気

血圧
監修

浅山 敬 先生
帝京大学 医学部 医学科 衛生学公衆衛生学講座 教授

高血圧はなぜ怖い?

高血圧は別名「サイレントキラー(沈黙の殺し屋)」と呼ばれます。ほとんど自覚症状がないのにもかかわらず、放置していると大切な脳、心臓、腎臓のはたらきを損なうこともある病気です。将来の脳卒中や心不全、腎臓病の予防のために、家庭で繰り返し血圧を測ることで高血圧の兆しを見つけ、早めにお医者さんに相談しましょう。

次から高血圧と関係が深い病気について解説していきます。

脳卒中(脳の病気)

血圧が高い状態が続くと、全身の血管がもろくなります。その結果、脳においては細い血管が破れて生じる「脳出血」や、太い血管にできた「コブ」のような「脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)」が破れて大出血を起こす「くも膜下出血」が生じやすくなります。さらに、脳の血管が動脈硬化を起こしてせまくなり、血流が届かなくなって生じる脳梗塞(のうこうそく)などの発症リスクも上昇します。

脳出血と脳梗塞は別の病気なのですが、どちらも脳の血管が破綻して、結果的に血液が運んでくる酸素や栄養が不足して脳細胞が「壊死(えし)」し、脳の機能が損なわれる点に大きな違いはありません。このため、ひとまとめにして「脳卒中」と呼ばれています。

脳卒中の治療は進歩しているので、一昔前のように脳卒中を起こしたらすぐ亡くなるケースは少なくなりました。その一方で、脳の機能が損なわれたことで生じる後遺症から日常生活に支障を来し、要介護や寝たきりになる人が増えています。血圧の管理は健康寿命を延ばすうえでも、とても大切です。

脳卒中の3つのタイプ ①脳梗塞は血管が詰まる ②脳出血は血管が破れる ③くも膜下出血は血管が破れる

不整脈(心臓の病気)

不整脈は脈がゆっくり打つ、速く打つ、不規則に打つ状態のことで、脈拍が1分間に50回以下の場合は「徐脈(じょみゃく)」、100回以上を「頻脈(ひんみゃく)」といいます(数値は、場合によって異なります)。心臓や肺の病気など原因はさまざまですが、血圧が高い状態が長く続くと心臓の負担が増えて心臓が大きくなる「心肥大」をおこし、不整脈の原因になります。また、脈の乱れが続くことで血栓ができやすくなり、その血栓が脳の血管に飛んで詰まると脳塞栓が引き起こされます。脈の乱れのほかにめまいやだるさ、動悸や息切れ、胸や背中の痛み、お腹の不快感などがある場合は、一般内科や循環器内科を受診しましょう。

冠動脈疾患(心臓の病気)

心臓の太い動脈が狭くなったり、つまることで生じる心臓の病気を「冠動脈疾患(かんどうみゃくしっかん)」と呼びます。心筋梗塞(しんきんこうそく)や狭心症(きょうしんしょう)が代表的で、血圧が高くなるにつれて、冠動脈疾患の発症や、それによって死亡するリスクが上昇します。高血圧以外に2型糖尿病や腎臓病、脂質異常症などが合併するとさらにリスクが高くなるので、血圧の管理をはじめ、生活習慣の改善がとても重要です。

心不全(心臓の病気)

心臓の血液を送りだすポンプとしての機能が落ちてきた状態が心不全です。高血圧が続くと血管の壁が堅く、分厚くなる動脈硬化をおこし、心臓の筋肉(心筋)に酸素や栄養を運ぶ血管もしなやかさが失われてしまうために、血管の末端まで血流が行き届かず、心筋の酸素不足、栄養不足が生じて心臓のポンプ機能が衰えてしまいます。

心臓そのものも、身体のすみずみに血液を送ろうとがんばり過ぎて「心肥大(心臓が大きくなること)」や「繊維化(固くなること)」をおこします。その結果、血液を上手く送り出せずに心臓内に血液が異常にとどまる「うっ滞」した状態におちいり、呼吸困難など心不全の症状が生じます。高血圧に加えて、息切れ、つかれやすい、足がむくむ、不整脈などの症状がある場合は、早めに一般内科や循環器内科を受診しましょう。

慢性腎臓病

血圧と腎臓って関係があるの? と思うかもしれませんが、腎臓は直接、血圧をコントロールする臓器でもあります。腎臓の元々の働きは、血流に乗って運ばれてくる老廃物や水分を「尿」として体外に排泄し、きれいに「ろ過」した血液を心臓に送り返すというもので、同時に体内の水分量を一定に保つ重要な役割も担っています。

腎臓が血液を「ろ過」する過程では一定の血圧が必要であることから、血圧が低い場合は腎臓から全身に「血圧を上げよう!」と指令が飛び、血圧が上昇します。しかし高血圧の状態が長く続くと、ろ過装置のなかの毛細血管が堅くなって血流がとどこおり、うまくろ過ができなくなってしまいます。そこで腎臓が「さらに血圧をあげよう!」という指令を全身に発してしまい、腎臓内の血管がなおさら堅く狭くなっていく、という悪循環におちいってしまいます。最終的に腎臓自身も、慢性腎臓病や人工透析が必要になる末期腎不全(まっきじんふぜん)に至ります。血圧の管理は腎臓の健康を守るうえでも大切な意味があります。

慢性腎臓病の進行 原因・悪化 → 高血圧 原因・悪化 悪循環の関係
情報公開日:2022年6月1日

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