血圧

6.高血圧の治療

血圧
監修

浅山 敬 先生
帝京大学 医学部 医学科 衛生学公衆衛生学講座 教授

生活習慣の改善

食事、運動、飲酒や喫煙といった生活習慣を健康的に変えることで、高血圧の予防や改善が期待できます。具体的には①減塩、②肥満の予防や改善、③お酒を控える、④身体を動かす習慣を身につける、などで、どれかひとつにこだわるのではなく、複数を組み合わせ、続けることで効果が現れます。また子どものうちから健康的な生活習慣を身につけることも将来の高血圧予防につながります。

日本高血圧学会では、次のような生活習慣の修正をお勧めしています。

生活習慣の修正 減塩・肥満の予防改善・節酒・運動・食事パターン・禁煙・その他

日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編 高血圧治療ガイドライン2019. 発行日本高血圧学会
一般向け 「高血圧治療ガイドライン2019」解説冊子 「高血圧の話」 日本高血圧学会発行

減塩

毎日の食事から「塩分」を減らすことで、血圧が下がる効果が期待できます。日常生活を送りながらいきなり厳しい減塩を実行するのは難しいかも知れませんが、最初は「減塩の調味料を使う」「塩分が高いインスタント食品を控える」「めん類の汁を残す」など、できることから始めてみましょう。塩分摂取量を1日1g減らすことで、収縮期血圧で平均1mmHg程度の降圧効果が期待できます。日本高血圧学会のホームページには、一般の方に向けて「食塩含有量の少ない食品」が紹介されています。下記のリンク先から資料をダウンロードできるので、ぜひ、利用してください。

特定非営利活動法人日本高血圧学会「さあ、減塩!〜減塩・栄養委員会から一般のみなさまへ〜」
3.食塩含有量の少ない食品の紹介

肥満の予防や改善

肥満かどうかは体重(kg)を身長(m)の二乗で割って算出する「体格指数(BMI)」で判断します。
一般社団法人・日本肥満学会の定義では、日本人はBMI25以上が「肥満」とされます。肥満・体重過多は、高血圧だけではなく、2型糖尿病や脂質異常症(高コレステロール血症)、高尿酸血症(痛風)など、多くの病気の原因になります。肥満の二大原因は過食と運動不足なので、食習慣の改善といっしょに、楽しんで続けられそうなエクササイズやスポーツを探してみましょう。

節酒

血圧は、お酒を飲んだ直後は下がりますが、家庭血圧を測定すると飲んだ翌朝の血圧はむしろ上昇するケースが多く見られます。また、毎日、一定量以上を飲み続けると高血圧を発症する可能性があります。アルコールそのものの量として、男性は1日20~30mL以下、女性は10〜20mL以下に控えてください。アルコールの量は次の計算式で算出できます。最近は「家飲み」の機会が増えていますが、だらだら飲むのではなく、時間を区切ってスマート飲酒を心がけてください。

アルコールの量(g)=アルコール飲料のmL×アルコール度数×アルコール比重(0.8)

1日の飲酒量の目安

運動習慣

高血圧の予防や治療には、ウォーキングやスロージョギングなどの「有酸素運動」が推奨されています。運動の強さは「ややきつめ」程度で、毎日30分以上、または週に3時間 (180分)以上を目安としましょう。楽しんでできるラケットスポーツや流行の筋力トレーニング(筋トレ)のほか、散歩や階段上り、床の拭き掃除など毎日の生活のなかで身体を動かすようにするといいでしょう。

食事パターン

減塩のほか、野菜や果物、青魚に含まれるEPAやDHAなどの多価不飽和脂肪酸の摂取も勧められます。食事については、厚生労働省と農林水産省が共同で、「食事バランスガイド」を策定しています。1日に何をどれだけ食べたら良いか、その目安がわかりやすくイラストで示されているので、ぜひ普段の食事の参考にしてください。

農林水産省 食事バランスガイド

禁煙

喫煙は高血圧だけではなく、がんや2型糖尿病、脂質異常症、心臓や肺の病気の危険因子で、血圧と並んで人類の健康を損なう大きな原因です。また、本人が吸わずとも、受動喫煙(間接喫煙)によって吸わない家族に、さまざまな病気のリスクが増えることが明らかになっています。たばこ (多くの電子たばこを含む)に含まれるニコチンには強い依存性・中毒性がある上に、喫煙によってさまざまな有毒物質が体内に取り込まれます。自分一人で禁煙が難しい場合は、禁煙外来を受診してもいいでしょう。

禁煙外来の受診

防寒、情動ストレスのコントロール

気温の上下も情動(感情)の上下も、身体にとっては「ストレス」です。ストレスにさらされると、興奮ホルモンのアドレナリンが放出され、血管がキュッと縮まり血圧が上昇します。たとえば、寒さとストレスを同時に感じる「早朝ゴルフ」で脳卒中や心筋梗塞が多いのは、血圧が一過性に急上昇するからだとされています。

特に、高齢者や肥満、親や兄弟姉妹に脳卒中などの既往がある方は注意が必要です。生活習慣の改善と同時に、自分なりにストレスにうまく対処する方法を探してみるといいでしょう。

クリニカル・イナーシャについて

最近、注目が集まり、高血圧ガイドラインの中でも採り上げられているのが、クリニカル・イナーシャ(Clinical Inertia)です。"クリニカル・イナーシャ"とは、直訳すると"臨床的な惰性 or 慣性" と訳され、臨床イナーシャとも呼ばれます。

クリニカル・イナーシャにはいろいろな意味があります。高血圧においては、まず診断イナーシャとして、高血圧がほったらかしであったり、若い頃に血圧が良好だからといって血圧を長い間測らずに高血圧が気付かれなかった状態が挙げられます。そして、高血圧の治療や生活習慣の改善が不十分なままで経過している、治療イナーシャもまた問題になっています。こうしたクリニカル・イナーシャは、患者さん側の問題、主治医側の問題、医療制度の問題、社会経済的問題など様々な要因が関与していますが、クリニカル・イナーシャの打破は、高血圧の早期診断や、長期間のしっかりした血圧の管理・治療にとってとても大事な取り組みです。基本の「き」として、まずは血圧をしっかり測定して、自分の血圧を把握しましょう。


出典元リスト

情報公開日:2022年6月1日

その他のコンテンツ

栄養・食事
日々の食事に役立つ情報をご紹介します。