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患者さんの命を支える「テルモのポンプ」
医療安全を目指し、積み重ねた改良改善

輸液ポンプとシリンジポンプは、治療中や療養中の患者さんの体液を正常な状態に保つため、静脈に穿刺した留置針と輸液ラインを通じて、水・電解質の補給や、栄養の補給、手術中に用いられる全身麻酔薬や循環作動薬など、治療に必要な薬剤をさまざまに組み合わせて投与するための医療機器です。一般的には吊るした輸液バッグにチューブをつないで直接投与する姿を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、この自然滴下法の場合は、ベッドの高さや薬剤の性質、時間経過などで、投与の速度が変化することがあるため、より厳密な薬剤投与の量や時間の管理が求められる状態にある患者さんには、機械で流量制御しながら送液することが可能な輸液ポンプやシリンジポンプが用いられます。

特に手術室や、集中治療室(ICU)などの「クリティカル部門」で治療を受ける重症・急性期患者さんの場合、薬剤投与のプロセスは極めて複雑です。緊急性を要する患者さんや、複数の患者さんに対し、さまざまな処置と並行しながら多種多様な薬剤を正確・安全に取り扱い、同時に治療経過の検証用に投与の記録も行う必要があるため、医療従事者の負担は非常に大きなものとなります。

テルモは、1977年に輸液ポンプを、1983年にシリンジポンプを発売して以来、日本の医療現場を中心に輸液・シリンジポンプの進化を担ってきました。機器の操作や薬剤の取り扱いに伴う医療事故のリスクを低減するため、製品を操作する医療従事者の目線で安全性を追求した機能の充実や使い勝手の向上など、技術的な改良改善を長年にわたり重ねてきました。日本ではトップシェアを占め、薬剤投与の進化に貢献し続けてきました。

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医療現場のニーズと輸液・シリンジポンプの進化

院内システムへのIT連携
輸液・シリンジポンプならではの技術の壁

近年、病院内のIT化が進む中、テルモの輸液・シリンジポンプはICTを活用し、手術・麻酔科システムなどの部門ITシステムとの連携を可能にし、高機能薬剤投与システムとして展開しています。また、ポンプには薬剤ライブラリ(薬剤ごとの適正な投与量が設定されたリスト)と無線通信機能を搭載し、薬剤投与情報の自動記録やモニタリングを行います。これにより院内業務の効率化と標準化、治療の安全性向上に寄与しています。

2010年に開発をスタートした輸液・シリンジポンプのIT連携は、当初テルモにとっては未知の領域でした。病院内のITシステムは、「電子カルテ」と呼ばれる病院情報システム(Hospital Information System:HIS)が知られていますが、文字通りカルテを電子化して管理するシステム、請求処理などに用いるシステム、検査や治療、看護業務を支援するシステムなど、多様な部門システムが複合的に存在するのが一般的です。また、システム構築を担うベンダーも数多く存在します。生体情報モニターや全身麻酔機器などの据え置き型の電子医療機器は、IT連携が先行していて、それらの機器を販売する企業自体がシステムを開発し販売していました。そのような中、どんなベンダーやシステムに連携すればいいのか、また、輸液・シリンジポンプをどう連携させるのか、数多くの課題がありました。

院内のシステムに連携させるには、技術的な壁がありました。輸液・シリンジポンプは患者さんの状態によって使用台数が増減し、また、手術室やICU、一般病棟など院内のいたるところを移動しながら使用されるため、据え置き型の機器と比べてシステム上の運用が非常に複雑だったのです。また、従来のポンプはRS-232C(EIA-232-D/E)という、医療機器やパソコン周辺機器などで一般的に用いられていたデータ出力方式のみを用いていました。RS-232Cは、USBや無線LANが普及した現在も、シンプルで安定した通信規格であることから、広く使われている方式で、また、他の機器はこの方式を用いてシステムにデータを送っているものも多く存在します。しかしながら、ポンプが連携する上では、その使用台数の多さと運用の複雑さから、システムに組み込めなかったのです。

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多様な技術を結集して実現した
インテリジェントポンプへの進化

ME(Medical Engineering・医用工学)機器の開発チームは、緊急性を伴う現場での複雑な薬剤投与管理や、多数のポンプを連結させた使用を想定し、デザインやユーザビリティの向上、安全機構など、ポンプそのものの改良改善に加え、院内システムとの連携を実現するため、設計やプログラミングに注力しました。

多数のポンプを同時に使用する際でも、従来のRS-232Cのデータ出力と電源供給を一本化できるよう、多連使用を想定した専用ラックの開発に取り組むチームがありました。また、現場からのニーズが高かった、薬剤管理の効率化や、投与ミスなどのヒヤリハット事例防止を、ICTを活用して実現するため、無線・有線LAN通信機能の追加や薬剤ライブラリ機能を開発するチームも立ち上げられました。

従来のハード主体のいわゆる「メカ」であったポンプを、ソフトリッチ(電子制御系)の「インテリジェントポンプ」に変えていくための挑戦だったのです。従来製品と比べ、数倍もの数の社内外の技術者がプロジェクトに携わり、2012年に院内IT連携を可能とする、高機能薬剤投与システムが誕生しました。

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「モノづくりの時代」を越えて 社内外の技術連携で価値を創出

医療機器は、正しく使用されて初めてその効果を発揮します。テルモは、製品(モノ)を届けるだけではなく、それぞれの医療現場の中で患者さんの命に貢献すること、製品を使用する医療従事者の皆様が目指す、医療の質の向上にまで貢献することが、医療機器メーカーの責務と捉えています。前述のように、多種多様なITシステムを使用している病院でテルモの輸液・シリンジポンプが安全かつ効率的に使用されるためには、実際にポンプを使用する医療従事者の皆様と、ITシステムを提供する企業の皆様とのコラボレーションが欠かせません。加速するICTの進化とともに、その機会は拡大を続けています。

コロナ禍において、医療現場のICTは図らずもその存在意義を高めることとなりました。テルモの輸液・シリンジポンプに対しても、さらなるハイレベルなニーズが生まれています。いち早くその声に応えるため、日々、技術の向上に取り組んでいます。