院内システムへのIT連携
輸液・シリンジポンプならではの技術の壁
近年、病院内のIT化が進む中、テルモの輸液・シリンジポンプはICTを活用し、手術・麻酔科システムなどの部門ITシステムとの連携を可能にし、高機能薬剤投与システムとして展開しています。また、ポンプには薬剤ライブラリ(薬剤ごとの適正な投与量が設定されたリスト)と無線通信機能を搭載し、薬剤投与情報の自動記録やモニタリングを行います。これにより院内業務の効率化と標準化、治療の安全性向上に寄与しています。
2010年に開発をスタートした輸液・シリンジポンプのIT連携は、当初テルモにとっては未知の領域でした。病院内のITシステムは、「電子カルテ」と呼ばれる病院情報システム(Hospital Information System:HIS)が知られていますが、文字通りカルテを電子化して管理するシステム、請求処理などに用いるシステム、検査や治療、看護業務を支援するシステムなど、多様な部門システムが複合的に存在するのが一般的です。また、システム構築を担うベンダーも数多く存在します。生体情報モニターや全身麻酔機器などの据え置き型の電子医療機器は、IT連携が先行していて、それらの機器を販売する企業自体がシステムを開発し販売していました。そのような中、どんなベンダーやシステムに連携すればいいのか、また、輸液・シリンジポンプをどう連携させるのか、数多くの課題がありました。
院内のシステムに連携させるには、技術的な壁がありました。輸液・シリンジポンプは患者さんの状態によって使用台数が増減し、また、手術室やICU、一般病棟など院内のいたるところを移動しながら使用されるため、据え置き型の機器と比べてシステム上の運用が非常に複雑だったのです。また、従来のポンプはRS-232C(EIA-232-D/E)という、医療機器やパソコン周辺機器などで一般的に用いられていたデータ出力方式のみを用いていました。RS-232Cは、USBや無線LANが普及した現在も、シンプルで安定した通信規格であることから、広く使われている方式で、また、他の機器はこの方式を用いてシステムにデータを送っているものも多く存在します。しかしながら、ポンプが連携する上では、その使用台数の多さと運用の複雑さから、システムに組み込めなかったのです。