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心臓外科手術を受ける患者さんの血液に
より負担の少ない人工肺を

テルモは、心臓を停止させて行う心臓外科手術(オンポンプ手術)中に心臓に代わって血液の体外循環を担う人工心肺装置や、肺の代わりに炭酸ガスと酸素のガス交換を行う、ホローファイバー型人工肺を展開しています。多孔質ホローファイバー型人工肺は、1982年にテルモが世界で初めて開発しました。約35年以上にわたり数々の技術改良を重ね、手術中の患者さんの生命維持に用いられています

患者さんの全身の血液を人工心肺装置で循環させながら、人工肺で血中のガス交換を行う―。この際に重要なことは「血液の変性を防ぐこと」です。血液は空気や異物に接するとたちまち変性します。このため、異物と接する面積を少なくし、血液適合性を向上させることが重要となります。 従って、人工肺の技術上の課題は、「使用部材の血液適合性の向上」であり、 「ガス交換効率の向上(小さい接触面積で十分な性能を引き出すこと)」となります。

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また、人工心肺システムの回路は、使い始めに人工肺を含む血液回路内を生理食塩水などの充填液で満たして空気を抜く必要があります。この充填液量が多ければ患者さんの血液が薄まり、酸素運搬能力が落ちたり、輸血が必要になることで感染症などのリスクが高まったり、術後回復に身体的負担が生じます。血液への影響を抑えるためにも、回路内を流れる液体の量、「充填量(プライミングボリューム)の低減」が求められます。この充填量は、小児など身体の小さな患者さんの場合、より影響が大きくなります。この他、血液が回路を流れる過程で生じる血栓や気泡など血液に影響を及ぼすこともあります。

Tテルモは、このような課題を一つひとつ解決するために、絶え間ない技術開発に取り組み続けてきました。

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1982年に世界で初めて発売した多孔質ホローファイバー型人工肺には、繊維会社で作った多孔質の膜からなる細い中空糸「ホローファイバー」を用い、血液をファイバーの内部に通す「内部灌流」という方式を採用していました。しかし、粘り気のある血液を極細のファイバーに通すには、ポンプで高い圧力をかけなくてはならず、従来と異なる血液回路が必要になるなど、医療現場での評判は芳しくありませんでした。

また、このホローファイバーは、血液循環をさせるうちにファイバーの膜が割け、血液の漏れが生じる「ほくろリーク」と呼ばれる現象が報告されていました。このファイバーは「延伸法」という製法で作られており、膜に対してストレートに空いた孔が並んでおり、血液が漏れやすく、また、引っ張る力がかかると容易に裂けてしまうという弱点がありました。

自社開発・製造のホローファイバーと、
外部灌流が道を開いた

テルモは、次世代の「血液漏れのない」人工肺を実現するため、自社製のファイバーの開発に踏み切り、既に自社で開発していた人工透析用のホローファイバーの製造ノウハウなども生かしながら、「相分離法」という製法を採用しました。これにより強度に優れ、また網目状の孔により血液漏れのリスクも低減したホローファイバーの開発に成功します。

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血液の灌流方式についても、血液をホローファイバーの外側に流す「外部灌流」方式であれば、従来の気泡型人工肺と同様の回路で使用できるため、次の目標になっていました。ところがこの方式にすると、圧力を使って人工肺に血液を流せないことから、均等に血液がファイバーに触れにくくなり、ガス交換性能が低下してしまうという、技術的な課題がありました。

この問題を解決した技術のひとつが、ファイバーに軽く「うねり」をつける「捲縮(けんしゅく)」という手法です。これにより、人工肺のハウジング(ケース)に束ねたファイバーを入れると、ファイバー同士が自ら広がろうとするため、密着することなく適度な間隔を保ち、まんべんなく血液と接触することとなりました。酸素を含んだファイバーの間をランダムに流動することで血液が酸素加されていく外部灌流式の人工肺は、内部灌流式の従来品と比べ、ガス交換性能は6倍に、シェアは20%近く(当時)となるフラッグシップモデルとなりました。

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世界標準を目指し、技術を積み重ねていく

テルモは、それから続く人工肺の歴史において、世界標準を目指し、数々の技術開発に取り組み続けました。

  • - 血液充填量を削減させるため、血液を溜めるリザーバーの位置や血液を体内に戻す際の動脈フィルターを本体デザインの中に組み込む技術の開発
  • - 更なる小型化のため、直線的に束ねるようにしていたホローファイバーを、円筒形の芯に毛玉のように巻き付け、編み込む技術の開発
  • - 回路内部に接する血液への影響を防ぎ、生体適合性を付加するため、疎水性と親水性を組み合わせた独自のコーティングを開発
  • - 新生児に特化した人工肺を開発するため、小型化の技術を進化
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心臓病患者さんに寄り添う技術へ
次世代の人工肺への挑戦

現在、テルモの人工肺は世界中の外科手術の現場で使われています。ホローファイバーの素材から自社で開発・生産する唯一のグローバル人工肺メーカーとして、新しい技術への挑戦は続いていきます。高い性能を維持しながらも、さらなる充填量の低減を実現するために、従来品より更に細く、薄いホローファイバーを搭載した後継シリーズを開発しています。

今後も絶え間ない技術の進化を追求し、心臓外科手術を受ける患者さんの負担軽減に寄与します。

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