医療関係の皆様向け情報

静脈瘤のはなし

監修 横浜南共済病院 心臓血管外科 孟真先生

静脈瘤の原因と治療方法、症状の軽減や悪化予防のために日常生活で工夫できることについて解説します。
わからないことがありましたらご自身では判断せずにかかりつけの先生や専門医にご相談ください。

はじめに

下肢静脈瘤は加齢とともに増加し、一般的に女性や長時間立ち仕事をしている方等に多いと言われています。年齢と共に静脈機能は低下していくため、むくみやだるさ、血管が浮き出るなど不快な症状を感じ始める場合があります。足の症状でお悩みの場合は早めに医師に相談することが大切です。

下肢静脈瘤の原因と症状

下肢静脈瘤とは、静脈の弁がきちんと閉じなくなり血液が逆流してうっ血してしまう病気のことを言います。心臓から送られてきた血液は静脈を通り重力に逆らって再び心臓に戻ります。そこで大切な役割を果たすのがふくらはぎの筋肉と静脈の弁です。静脈血は周辺の筋肉の助けを借りて血液を心臓方向へ押し戻します。これを「筋ポンプ作用」と呼びます。このふくらはぎの筋ポンプ作用の低下や静脈弁のかみ合わせが悪くなると血液の逆流が起こり下肢に血液が滞ってしまいます。

うっ血が起こり下肢の血液循環が悪くなることで、足がむくむ、重くなる、だるい、つりやすくなるなどの症状が出てきます。

ふくらはぎに力を入れると筋肉が収縮して血液を心臓へ戻す

ふくらはぎをリラックスさせると筋肉が緩んで血液が静脈に溜まる

下肢静脈瘤の症状

  正常 静脈瘤

弁が壊れて逆流してしまう

静脈の流れ

逆流するとうっ血してしまう

静脈瘤にはさまざまな症状があります

下肢静脈瘤が起こりやすい方

女性に多い

比率 男性:女性=1:1.2~2.8

長時間立ち仕事に従事している方

立ちっぱなしで筋ポンプ作用があまり働かないため血流のうっ滞が生じやすく、症状が出やすくなります。

妊娠中の方・出産経験のある方

妊娠と出産を契機に発症する方が多くいます。

遺 伝

ご家族に静脈瘤になった方がいる場合はかかりやすくなります。しかし必ずしも皆なる訳ではありません。

加 齢

歳を取るにつれて静脈瘤になる方が増えます。

肥 満

肥満の方は静脈疾患が重症化しやすいです。

下肢静脈瘤の治療法※1

治療の目的

症状を改善する、静脈炎や皮膚炎、出血、潰瘍などの合併症を防ぎ、美容的にも改善することです。

圧迫療法

弾性ストッキングや弾性包帯で下肢を圧迫して静脈のうっ血や逆流を防ぎ血流を促進する治療法です。圧迫すると足のむくみ・だるさ・重さが改善され、皮膚の症状も軽くなる安全で簡単な方法です。

妊娠中の方はむくみが出やすく、だるさや痛みが伴うことがあるため、このような症状改善にも有効です。

弾性ストッキングは足首の圧迫圧がもっとも高く、脚の付け根に向かって圧迫圧が弱くなっています。

硬化療法

静脈瘤の中に硬化剤という薬を注射して静脈を閉塞させる治療法です。
硬化療法のあとは圧迫療法を必ず行います。

手術療法

血管内焼灼術

静脈にレーザーや高周波を発する細いカテーテル(管)を挿入し、血管の内側から静脈を焼いてふさぐ手術です。静脈周囲にTLA麻酔※2という局所麻酔を行い治療します。広く行われている治療で、良好で安定した結果がでています。手術の後は圧迫療法を行います。

グルー治療

熱焼灼およびTLA麻酔※2を用いない治療です。静脈内に挿入したカテーテルから接着剤を血管内に注入し皮膚の上から圧迫して血管をふさぐ治療です。医療用の接着剤を使用するため、糊(glue)を意味するグルー治療と呼ばれています。

ストリッピング手術

ストリッピング手術は皮膚切開部から針金を血管の中に入れて拡張や瘤化した静脈を引き抜く手術です。血管内焼灼術ができない症例や重症例を中心に行われています。手術後は圧迫療法を行います。

※1 治療法の選択は病状によって異なりますので医師にご相談ください。
※2 TLA麻酔:低濃度の局所麻酔

下肢静脈瘤の症状の軽減と悪化予防のために

適度な運動と減量

足を動かすとふくらはぎの筋肉が収縮し筋ポンプが働き、足の静脈を収縮させて血液を心臓方向へ押し上げます。長時間立ちっぱなしや座りっぱなしはなるべく避け、足がだるくなったら短時間でも足を動かすことが大切です。また、肥満は静脈瘤の悪化の原因です。
日常的な運動は肥満の解消にも効果的です。

椅子に座って足首運動

まず足の裏をしっかり床につけて座ります。
そして、つま先をあげ、次にかかとをあげます。
これを交互に繰り返します。力強く行うとより効果的です。

ふくらはぎマッサージ

足首からひざにかけてふくらはぎの筋肉をしっかりともみ上げるマッサージは、足の静脈血の流れを促進させます。

足を下げている時間を減らしましょう

長時間立ちっぱなしや座りっぱなしで足を下げている時間を減らしましょう。座っているときは静脈瘤のある足をちょっと台の上にあげることも有効です。

寝ているときは布団などを利用して足を床から10cm程度上げることも有効なことがあります。

弾性ストッキング

弾性ストッキングを着用し圧迫することで筋ポンプ作用が増強され静脈還流の改善につながります。このため不快な静脈瘤の症状を緩和することができます。適切なサイズの弾性ストッキングを履くことで症状や皮膚病変の緩和につながります。

脚は清潔に

静脈瘤があると血液の循環が悪く、皮膚炎などを起こしやすくなります。スキンケアにも注意しましょう。
また、弾性ストッキングも洗い替え用として2組以上持っていると便利です。

最後に

下肢の静脈は「第2の心臓」と呼ばれるほど、心臓に血液を戻す大切な役割を担っています。下肢静脈瘤に気が付いたら過度に心配する必要はありませんが、ゆっくりと進行する病気なのでかかりつけの先生や専門医に相談してください。長時間の立ちっぱなしは避け、日常的に運動を取り入れ脚の健康を保つことも大切です。
静脈瘤の症状を軽くしたり、手術を受けた後の治療に弾性ストッキングは有効です。自分にあった弾性ストッキングを選んでもらい、着用の仕方を教えてもらいましょう。

参考文献:

  • 岩井武尚 監修, 孟 真, 佐久田 斉 編集:新 弾性ストッキング・コンダクター〔第2版 増補版〕静脈疾患・リンパ浮腫における圧迫療法の基礎と臨床応用 株式会社へるす出版,2020
  • 広川雅之,佐戸川弘之,八杉 巧,他:下肢静脈瘤に対する血管内焼灼術のガイドライン2019.静脈学2019; 30Suppl: i-81
  • 広川雅之,佐戸川弘之,八杉 巧,他: 下肢静脈瘤に対するシアノアクリレート系接着材による血管内治療のガイドライン. 静脈学2020; 31(3): 141-152
  • 平井正文、廣田彰男、中村正人、鈴木加奈子:むくみ体質をあきらめない―医師が教える改善の知恵 株式会社メディカルトリビューン, 2010

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