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リンパ浮腫について知っておいてほしいこと

監修 リムズ徳島クリニック 小川佳宏先生

手術でリンパ節を取る・抗癌剤を点滴する・放射線を照射するなど、がんの治療を受けたあとや、外傷・感染・先天的なリンパ管の発育障害などでリンパ管が障害されたことにより腕や脚がむくむ「リンパ浮腫」という病気があります。いったん発症したリンパ浮腫を完治させることは困難です。しかし、日常生活に注意すると発症しにくくなります。また早期に発見して治療を開始すると、治らなくても悪化しにくくなります。そのために知ってほしいことを簡単にまとめました。がんの治療を受ける際には、一度目を通して参考にしてください。なお、ご不明な点があれば医師にご相談ください。

リンパ浮腫とは

リンパ管は全身に張り巡らされていて、静脈と協力して全身に送られた血液成分を心臓に戻す働きをしています。体のすみずみから集めたリンパ液を、くびにある静脈角という場所に運び、そこから静脈に合流します。口から食べたものが胃から腸に運ばれ排泄されるように、リンパ管自体にも運動能力があり、また静脈のように弁があるため、逆流せずに常にくびの方に向かってリンパ液は流れています。
しかし、リンパ管を切断したり働きが悪くなると、リンパ液がうまく運ばれず腕や脚に残ってむくみます。これが「リンパ浮腫」です。
体表面のリンパ管は主に皮下組織の中にあるため、リンパ浮腫では皮膚や皮下組織にリンパ液がたまります。また手術を受けた場所(乳がんならわきの下、婦人科がんなら足の付け根)近くからむくみはじめ、徐々に腕や脚の先にひろがります。(もちろん例外はあります)このような特徴を理解すると、リンパ浮腫の発症を早く見つけることができます。

こんな症状に注意してください

リンパ浮腫の典型的な症状は、痛みや皮膚の変色を伴わないむくみです。しかし、患者さんによっては、以下のような症状がみられることがあります。

リンパ浮腫
  • 皮膚が張るようなピリピリした違和感
  • 皮膚の発赤・熱感
  • 皮膚の乾燥
  • 毛深くなる

発症早期のリンパ浮腫は、皮下組織に水分が多く、柔らかく、安静にしていると改善します。しかし慢性期でリンパ液の逆流が皮膚の表面にまで及ぶと、皮膚が肥厚して硬くなり、また長期間経過すると脂肪や線維組織が多くなり改善しづらくなります。

リンパ浮腫にならないために─リンパ浮腫の予防法

「リンパ浮腫になりたくないからリンパ節をとらないでほしい」という声を聞いたことがありますが、実際はリンパ節を取っても全員がリンパ浮腫になるわけではありません。
個人差がありますが、皮下組織内のリンパ管にはたくさんの細いわき道がありネットワークを作っています。リンパ節をとっても、そこにわき道がたくさんあればリンパ液が流れてむくみません。なければリンパ液が弁を壊して逆流してしまいむくみ始めます。患者さんのリンパ管のネットワークが発達しているかどうかという体質的な要因に関係しているといえますので、医師にも治療前に判断することは不可能です。
リンパ浮腫を確実に予防する方法はありませんが、原因となる病気を克服しておかなければリンパ浮腫の治療にも専念できないため、がんの治療をまず最優先としてください。
早期に発見して治療を開始することは、今後の生活の質を落とさないためにも重要ですので、リンパ浮腫という病気についてよく理解していただくことが大切です。

自分で手足を触ってみましょう

乳がんの手術後なら腕を、下腹部の手術後なら脚を毎日自分の手で触りましょう。
リンパ浮腫の初期症状は、皮膚の変化です。皮膚を触った感触がいつもと違うようなら主治医に相談しましょう。

弾性ストッキングを着用しましょう

下腹部の手術後であれば、椅子に座る時間や立って過ごす時間が長い日は、できるだけ弾性ストッキングを着用しましょう。

腕や脚を傷つけないようにしましょう

炎症をきっかけにむくみ始めることがあります。
むくむ可能性がある腕や脚に鍼灸治療や注射を受けることはできるだけ避けましょう。素手での草むしりや裸足での海水浴も避けましょう。

重労働・過労・心労はできるだけ避けましょう

むくむきっかけとなることがあります。
海外旅行や引っ越しなども無理をしないように心掛けてください。

休養を十分とりましょう

疲れが出る前に休養しましょう。
脚を休ませるときは軽く挙上してください。

リンパ浮腫になってしまったら─リンパ浮腫の治療法

リンパ浮腫になっても、早くから適切に治療を開始して悪化を防ぐようにしましょう。リンパ浮腫の治療法は複合的理学療法と呼ばれ、世界中で行われています。また日本では日常生活の指導も含めて「複合的治療」と呼んでおり、平成28年に保険が適用されました。*1
複合的理学療法は、①スキンケア(感染予防)、②用手的リンパドレナージ、③圧迫療法、④圧迫した状態での運動療法の4つの治療をあわせて行います。

スキンケア

むくんだ皮膚は傷つきやすく炎症を起こしやすいため、ひびわれや水虫など細菌感染しやすい部分には保湿クリームや適切な外用薬を使用して治してください。

用手的リンパドレナージ

皮膚や皮下組織にたまったリンパ液を正常なリンパ節にまで誘導するようにドレナージ(排液)を行います。
筋肉をほぐすマッサージや美容目的に行われるリンパマッサージと混同しないでください。

詳しい方法は医療機関にご相談ください。

圧迫療法

体の水分は重力にしたがって腕や脚の先にたまりやすくなります。用手的リンパドレナージで排除したリンパ液も重力の影響で移動しやすいため、元に戻らないように腕や脚を十分に圧迫します。
圧迫方法には弾性ストッキング(スリーブやグローブを含む)や弾性包帯を使用します。
ストッキングは既製品とオーダーメイドがありますが、むくみの状態にあった製品を選ぶ必要があります。しかしむくみが強いときには弾性包帯を使用して改善させた後にストッキングを使用します。

圧迫した状態での運動療法

圧迫した状態で運動をすることにより、筋肉の動きが皮下組織にあるリンパ管を刺激し、リンパ液が運搬されやすくなります。
あまり強い運動ではなく、毎日できることを続けてください。たとえば散歩をしましょう。腕では手を握る・離すといった運動や、脚では足首や膝の曲げ伸ばしなど日常生活のなかでもできる運動で結構です。

リンパ浮腫は「予防」「早期発見、早期治療」が大切です。ちょっとした注意をすれば、むくみ始めても悪化を防止することが可能です。

参考文献:
小川佳宏 むくみで困ったときに読む本  1からわかるリンパ浮腫の予防とケア 保健同人社、2010
佐藤佳代子編 リンパ浮腫の治療とケア(第2版) 医学書院、2010
リンパ浮腫療法士認定機構編 リンパ浮腫診断治療指針2013 メディカルトリビューン、2013

*1(B001-7)リンパ浮腫指導管理料の対象となる腫瘍に対する手術等の後にリンパ浮腫に罹患した患者であって、国際リンパ学会による病期分類Ⅰ期以降のものに対し、複合的治療を実施した場合に算定する。

*イラストはイメージです。

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