医療関係の皆様向け情報

夜間頻尿に対する行動療法

監修 東邦大学医療センター大橋病院 泌尿器科 教授 関戸哲利先生

夜間頻尿の原因や行動療法についてご紹介します。
なお、わからないことがありましたら、ご自身では判断せずに、かかりつけの先生や泌尿器科の先生にご相談ください。

はじめに

夜間頻尿は加齢とともに症状のある方の割合が増加し、ご高齢の患者さんでは夜間のトイレへの往復時の転倒のリスク要因になることが知られています。
夜間頻尿の原因は多様ですが、多尿・夜間多尿、膀胱蓄尿障害、睡眠障害が主な原因です。
就寝後におしっこのためにトイレに行く回数が増えて困っているようであれば、かかりつけの先生や泌尿器科の先生に相談してみましょう。

夜間頻尿とは

夜間頻尿とは、睡眠中に排尿のために2~3回以上起きなければならず、それにお困りになられている状態のことを指します。

夜間頻尿の原因

夜間頻尿の3大原因は、

  • 尿が作られ過ぎている(多尿・夜間多尿)
  • 尿が膀胱に少ししか溜められない(膀胱蓄尿障害)
  • 寝つきが悪い、眠りが浅い(睡眠障害)

です。

多尿・夜間多尿と夜間頻尿

尿が作られ過ぎている、つまり尿量が多いと夜間頻尿が起こります。
その原因には、

  • 1日を通して尿が多い「多尿」と
  • 夜間に作られる尿が多い「夜間多尿」

があります。

多尿の原因としては糖尿病などに注意する必要があります。
夜間多尿は原因不明の場合もありますが、心臓や腎臓の機能の低下、睡眠時無呼吸症候群などが背景にある場合があります。
また、近年、日中に下半身に貯留した体液(下肢のむくみなど)が就寝後に血管の中に戻り、心臓から腎臓を経由して尿として排泄されることが夜間多尿の一因となっていることも示されています。

  • 多尿:1日の尿量が40mL/kg体重を超える場合(例:体重60kgの方の場合は1日の尿量が2,400mLより多い場合)
  • 夜間多尿:夜間の尿量が1日の尿量の33%を超える場合(65歳以上の方)

*イラストはイメージです。

膀胱蓄尿障害と夜間頻尿

尿が少ししか溜められないため夜間頻尿が起こります。
1回の排尿の量が1日を通して毎回200mL以下の場合、膀胱の容積が小さくなっている可能性があります。
膀胱の容積が減少する代表的な病気は、過活動膀胱 (男性、女性)と前立腺肥大症(男性のみ)です。
過活動膀胱は、原因不明の場合が多いですが、脳卒中や糖尿病、脊髄の病気などに高率に合併することも知られています。

*イラストはイメージです。

睡眠障害と夜間頻尿

寝つきが悪い、眠りが浅いといった睡眠障害も夜間頻尿の原因になります。
睡眠障害も原因不明の場合が多いですが、睡眠障害の診療を必要とする難治性の睡眠障害もありますので注意が必要です。

夜間頻尿の診断

夜間頻尿の診療では、

  • 問診
  • 身体診察
  • 血液や尿の検査
  • 排尿日誌

などを行います。

排尿日誌をつけることで、

  • 多尿や夜間多尿の有無
  • 膀胱蓄尿障害の有無

などを知ることができ、夜間頻尿の診断では必須項目です。

夜間頻尿の治療

夜間頻尿の治療には、

  • 行動療法
  • 薬物療法

があります。

行動療法には、多尿や夜間多尿、膀胱蓄尿障害、睡眠障害の改善を目標に行われるものがあります。

  • 行動療法には、飲水制限・塩分制限・食事・運動療法・禁煙・弾性ストッキングの使用・午後の下肢の挙上などがあります。

薬物療法には、夜間多尿を治療する薬剤、過活動膀胱治療薬や前立腺肥大症治療薬、睡眠薬などがあります。
この後は、夜間頻尿のうち夜間多尿に対する行動療法の一例をご紹介します。

夜間多尿に対する行動療法

夜間多尿の行動療法には、飲水量の調節・塩分制限・運動・弾性ストッキングの着用によるむくみ対策などがあります。

飲水量の調節

  • 水分
  • アルコール、カフェインを多く含む飲料
  • 水分を多く含む食物(サラダや果物)の摂り過ぎを控える。
  • 1日尿量が20~25mL/kg(体重)となるように飲水量を調節する。

例:体重60kgの方 1日尿量1,200mL~1,500mL

  • 尿量を増やすお薬を使用されている方(例えば心不全や糖尿病の治療薬等)や内科疾患があり治療を受けられている方は、かかりつけの医師にご相談ください。

塩分制限

塩分の摂り過ぎに注意する。
(血管治療ガイドライン2019では6g/日未満を推奨されています)
陸上の生物は人間を含めて塩分を体内に保持する仕組みを高度に発達させています。その反面、塩分が過剰な状況を想定した仕組みは十分とはいえません。過剰な塩分を排泄させるために夜間の血圧が高くなる方では、夜間多尿や明け方の頻尿などが生じます。

  • 基礎疾患がある方は、かかりつけの先生にご相談ください。

運動

夕方以降に30分程度の散歩など。
下肢の筋肉を動かすことによって日中に下半身に貯留した体液を血管の中に戻し、就寝前までに尿として排泄させ、夜間多尿を改善させます。
適度な運動は安眠にもつながり一石二鳥です。

弾性ストッキングの使用

日中、弾性ストッキングなどを着用し足のむくみを予防する。

下肢に体液を貯留しにくくすることで、就寝後に下半身から血管の中に戻る体液量を減らし、結果的に夜間多尿を改善させることが期待できます。

*イラストはイメージです。

弾性ストッキングについて

弾性ストッキングは足首の圧迫圧が最も高く、大腿に向け圧迫圧が低くなる段階的圧迫圧に作られています。
様々な圧迫圧が設定されており、適したサイズを選ぶ事も重要です。

また、「深部静脈血栓症」「動脈血行障害」「うっ血性心不全」「装着部位に炎症性疾患、化膿性疾患、創傷」「装着部位に神経障害」「糖尿病」「繊維に対して過敏症」がある方は、慎重な使用が必要です。
「重度の血行障害」「うっ血性心不全及び有痛性青股腫」「感染性静脈炎」「装着部位に極度の変形」がある場合は、使用が禁止されております。

弾性ストッキングの選択及び使用に関しては、医療従事者にご確認ください。

最後に

夜間頻尿は

  • 尿が作られ過ぎている
  • 尿が膀胱に少ししか溜められない
  • 寝つきが悪い、眠りが浅い

などの原因で引き起こされる症状です。
気になる方はかかりつけの先生や泌尿器科の先生に相談してください。
夜間頻尿の原因の診断には排尿日誌が必須です。
夜間頻尿の治療では行動療法をまず行った方が良いと考えられています。
医療従事者の指導に基づき日常生活に取り入れ、夜間頻尿の改善に繋げていきましょう。

参考文献:

  • 日本排尿機能学会、日本泌尿器科学会 編集(2020)
    夜間頻尿診療ガイドライン[第2版] リッチヒルメディカル株式会社
  • 「排尿障害プラクティス」編集委員会 編集(2020)
    排尿障害プラクティス Vol.28 No.1 (株)メディカルレビュー社
  • ジョブストウルトラシアー 電子添文(2019年10月改訂 (第6版)
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