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血管内を視覚化。診断の技術が広がれば、治療が進む。

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テルモが超音波を応用する医療機器を開発してきた歴史は1969年の胎児心拍計に始まるが、時代をリードするような製品は誕生しなかった。矢上は海外製品一色のなか、2000年に国産初の心冠状動脈内超音波診断装置(IVUS)と、当時*としては最小口径の専用カテーテルを開発し、画像診断時代のフロントランナーとなった。

  • *2000年7月

矢上 弘之
フェロー
心臓血管カンパニー TIS事業

日本初IVUS開発を決めた理由

矢上は入社して10年ほど、体表面用の超音波診断装置の開発などを行っていたが、なかなか目立った製品にはならなかった。そこで見方を変え、その頃の医療現場や、社内の開発状況を調べてみた。すると心臓の冠動脈をカテーテルで治療するPCI(経皮的冠動脈形成術)が非常に増加しており、社内でもPCI用のカテーテルを次々と開発している。それならPCIの治療を診断面から支える機器を開発すれば、市場でも、社内でも相乗効果が出るのではないかと考え、IVUSにたどり着いたのだ。

カテーテルの細さが診断範囲を広げる

さらに矢上は相乗効果を考える。カテーテルはテルモの得意とするところで、IVUS専用のものを作れば、必ず良いものができると確信し、細いカテーテルを作った。画像はカテーテルが届くところまでしか見えない。したがって細くするというのは、診断できる範囲がそれだけ広がるということになるのだ。

PCIの分野でルーチン化したIVUSによる診断

日本を含めたPCI先進国ではIVUSの普及率が高く、冠動脈病変の位置や組織の性状診断、治療後の状況確認などの目的で、診断のルーチンに組み込まれてきている。しかし当初はここまで普及するという予測はなく、また開発者である矢上でさえも想像していなかった。日本でPCIでの治療が増加するとともに、その診断に使われるIVUSも車の両輪として増加したのであろうか。PCIのなかでも、拡げた血管が再び狭搾(きょうさく)するのを防ぐ薬を塗った薬剤溶出型冠動脈ステントという機器が出てから、さらにIVUSのニーズが増すと考えている。

注目される、心筋梗塞の予測研究

循環器科の医師を悩ませる病気として、心筋梗塞のなかでも、前触れなく突然起こる急性冠症候群(ACS)が注目されている。それほど冠動脈の狭窄が強くなくても起こるACSは、物理的な詰まりよりも、血管組織の性状が問題だとする研究も多い。現在のIVUSは血管組織の性状が見える技術を組み込んでおり、今後のさらなる研究が期待される。

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IVUSによる冠動脈内の画像*
脂肪(青)や線維化(緑)が認められる

IVUSとは

Intravascular Ultrasoundの略で、血管内超音波検査法と呼ばれる血管内画像診断技術。PCIに際し、カテーテルやステントのサイズを決めたり、術後の状況を確認するなどの用途がある。以前はモノクロ(グレースケール)の画像であったが、現在はカラーによるマッピングで血管組織の性状(脂肪・線維化・石灰化など)を示せるようになった。
  • 川崎雅規准教授(岐阜大学医学部附属病院循環病態学)他;"新しいIB-IVUS装置の開発と三次元画像の構築".J Cardiol Jpn Ed Vol. 7 No. 2 2012より抜粋