テルモ株式会社(本社:東京都渋谷区、社長:佐藤 慎次郎)は、テルモがスポンサーした臨床試験「DISCO RADIAL」(
DIStal vs
COnventional
RADIAL access trial)の結果が公表されたことをお知らせいたします。DISCO RADIALは、心臓カテーテル治療において、近年普及し始めた遠位橈骨動脈穿刺法(Distal Radial Access: DRA)の有用性を検証する、世界初の多施設無作為比較試験です。結果は、欧州の心臓病学会「EuroPCR 2022」での発表に加えて、医学雑誌「Journals of the American College of Cardiology (JACC)」に掲載されています。
心臓カテーテル治療において、患者さんの手首内側にある橈骨動脈を穿刺してカテーテルを挿入する方法(Transradial Access: TRA)は、欧州や米国の学会ガイドライン
*1でも推奨されており、治療のスタンダードとなっています。他の穿刺部位である太ももや上腕に比べて、術後管理のしやすさや止血時間の短さから世界中の医療機関で行われています。一方で、術後に橈骨動脈が閉塞してしまう合併症(RAO)が発生し得ることが課題とされています。閉塞すると、後日患者さんが追加のカテーテル治療などが必要になった場合、他の血管からアクセスするなどの対応が求められます。
DRAは、手の甲側にある親指付け根付近の血管からカテーテルを挿入する方法です。新たなアクセス法として、RAOの発生頻度を減らせる可能性があると期待されています。
DISCO RADIALは、欧州と日本の16施設で実施し、TRA群とDRA群におけるRAOの発生率を主要評価項目に設定しています。両群のほとんどの症例で、テルモがTRA用に開発したシース「Glidesheath Slender」を使用しました。TRA群では、止血時は橈骨動脈の血流を保ちながら圧迫圧を最小限に抑えるプロトコールを推奨し、DRA群では、止血プロトコールは施設ごとの対応で行われました。TRA群657例と、DRA群650例を比較した結果、両群のRAO発生率はそれぞれ0.91%(=TRA)と0.31%(=DRA)といった結果で、有意差はありませんでした。
両群とも橈骨動脈が閉塞する症例が極めて低かったことから、DRAはTRAに並んで有用であることを支持する結果となりました。また、TRAにおいてはRAOを回避するためには適切な術後止血プロトコールが重要であることが示唆されました。
その他に、血管関連の合併症や穿刺部位からの出血などの項目を比較しても両群共に良好な成績を示していました。本臨床試験の結果
*2は、現在心臓カテーテル治療の標準手技であるTRAの有用性を改めて強調し、かつ、DRAがTRAの代替として活用できることも示しています。
今年は、TRAによる心臓カテーテル治療(TRI)が初めて行われてから30周年を迎えました。これまでテルモは、TRAで使用しやすい製品の開発や、トレーニング機会の提供、エビデンス構築の支援などで普及の一端を担ってきました。今後も、「医療の進化」と「患者さんのQOL向上」のために多面的に貢献してまいります。
*1 ESC/EACTS (European Society of Cardiology, European Associations for Cardio-Thoracic Surgery) および ACC/AHA/SCAI(American College of Cardiology, American Heart Association, Society for Cardiovascular Angiography and Interventions)
*2 結果の概要:TRA vs DRA
・橈骨動脈閉塞(RAO):0.91% vs 0.31%, p=0.29
・アクセス成功率(Crossover rate):3.5% vs 7.4%, p=0.002
・スパズム発生率:2.7% vs 5.4%, p=0.0015
・止血時間:180分 vs 153分, p<0.001