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開心術を待つミャンマーの患者さんのために

日本の臨床工学技士の支援で、
ミャンマーの体外循環技士を育成
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    研修の様子

近年、新興国でも生活習慣の変化などに伴い、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患や脳卒中などが増加しています。ミャンマーでも、虚血性心疾患による死亡者数は全死亡者数の7.8%*1で、死因の第3位*1を占めています。

その一方で、ミャンマーでは長年、医療従事者の不足が課題とされてきました。患者さんの心臓を一時的に止めて切開する開心術の場合、心臓外科医の他に、麻酔科医や、手術中に心臓や肺の機能を代行する人工心肺装置を操作する体外循環技士、看護師などが連携して手術を行います。2014年当時、ミャンマーの人口約5,300万人に対し、心臓外科医の数は十分とは言えず、体外循環技士も10人程度で、心臓外科手術を実施できる病院は全国で5施設しかありませんでした。その結果、手術の年間症例数も、日本では人口約1億2,600万人で約63,000例*2に対し、ミャンマーでは人口約5,300万人で約1,200例*3とはるかに少なく、手術を受けるには1年以上も待たなければならない状況でした。

このような現状を目の当たりにしていたヤンゴン支店のアソシエイトは、テルモとしてできることはないか、日本の本社や事業部門とも相談しながら、検討を進めました。ミャンマーでは、これまでも海外から医療チームが来訪し、心臓外科手術や現地医療スタッフへの技術指導などが行われてきました。しかし、医師とは異なり、ミャンマーの教育機関には体外循環技士の養成課程がないため、心臓外科手術では麻酔科医や看護師が人工心肺装置の操作を兼務していました。さらにトレーニングを受ける機会も少なく、技能を持った人材を育てる仕組みが整っていませんでした。一方、日本では、大学や短大・専門学校に設置された養成課程を修了し、国家資格を取得した臨床工学技士が体外循環業務を担っており、ミャンマーの状況とは大きな差がありました。

テルモはこのような現状に着目し、豊富な経験と技能を有する日本の臨床工学技士の協力を得て、ミャンマーで研修を行う企画を立案しました。そして、この取り組みの意義を国立国際医療研究センター(NCGM)に提案した結果、NCGMの「医療技術等国際展開推進事業」として採択されました。

ミャンマーでの研修は、現地での事前調査を経て、2018年9月から2019年1月にかけてヤンゴンとマンダレーの2都市で計3回開催され、5つの病院からのべ44名が参加しました。講師となる日本の臨床工学技士の中には、ミャンマーでの研修指導経験のある技士も参画し、体外循環に関する基礎知識や人工心肺装置の操作方法を指導するとともに、体外循環シミュレーターを使用した実践的なトレーニングを行いました。受講者の学習意欲は高く、熱心に講師の説明に耳を傾け、積極的に質問しながら取り組んでいました。受講後のアンケートでは実践的な内容が好評で、ミャンマーの保健省からも研修の意義を評価するコメントをいただきました。テルモは、研修が円滑に運営できるよう、ミャンマーと日本の橋渡し役として、研修の企画・準備・運営や関係者間のコーディネートなどを行いました。

今後は、ミャンマーの中で自ら技士を育成する仕組みが必要とされています。継続的な研修により、中核となる技士を育成し、その技士が講師となって経験の少ない技士を育てるという流れができるよう、テルモとして支援できることを考え、取り組んでいきます。

  • *1

    Institute for Health Metrics and Evaluation「Global Burden of Disease Study」(2017)

  • *2、*3

    テルモ調べ

関係者の声

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テルモシンガポール社
ヤンゴン支店 前支店長

竹内 貴紀
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テルモシンガポール社
ヤンゴン支店 支店長

毛野 正軌

  • *

    所属・役職は取材当時のものです。

ミャンマーの医療現場を訪問して気づいた課題の一つが、国内で心臓外科手術を受けるためには1年以上待たなければならず、その間に亡くなっていく患者さんが多いということでした。心臓外科医の育成については日本を含め色々な国からの支援もありますが、体外循環技士の育成はほぼ手付かずの状態。麻酔科医などが体外循環技士の任務も担って何とか手術を行っているという現状を変えることで、一人でも多くの患者さんの命を救うことができないものかと考え、本事業に提案し採択されたのが事の始まりです。経済発展に伴う生活環境の変化で、今後さらに心臓外科手術件数が増えていくことを想定したとき、この取り組みは意義深い第一歩でした。
実際、計3回の研修はいずれも非常に好評でした。講師の豊富な経験に裏打ちされたセッション、シミュレーターを用いた実技の効果を踏まえ、受講者は習得した技能を実際の人工心肺操作に生かしたいと語っていました。事前準備、研修実施、事後フォローを含め、講師を引き受けてくださった臨床工学技士の皆様、地域・部門を横断したテルモメンバーのチームワークとNCGMのご支援がなければ、この研修の成功はありませんでした。
この国では、官民を問わず多くの方々が保健医療水準の向上に尽力し、貢献されてこられました。私たちも、過去には血液製剤の保管容器をガラス製から安全性と使いやすさを向上させたプラスチックバッグに切り替えた実績があります。今後も「医療を通じてミャンマーの社会に貢献するテルモ」を目指し、取り組みを続けていきたいと思います。