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医療関係の皆様向け情報

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Medical Tribune [2009年4月9日(VOL.42 NO.15) p.52]

特別企画

肝硬変における栄養療法を見直す

―分岐鎖アミノ酸(BCAA)補充療法の新展開―

加藤 昌彦 氏 西口 修平 氏 加藤 章信 氏 久保木 真 氏
加藤 昌彦 西口 修平 加藤 章信 久保木 真

 肝疾患の進展には肥満やインスリン抵抗性が関与していることが明らかとなり,従来の栄養療法は大きく見直しを迫られている。そうしたなか,肝性脳症や低アルブミン血症の改善に用いられてきた分岐鎖アミノ酸(BCAA)が肝発癌抑制作用を有する可能性が示され,肝硬変におけるBCAA補充療法の役割もまた様変わりしつつある。
 そこで,兵庫医科大学の西口修平先生のご司会のもと,肝臓病治療の第一線に立たれる先生方にお集まりいただき,肝硬変における栄養療法の考え方や,BCAA補充療法の新たな有用性についてご討議いただいた。

加藤 昌彦 氏 椙山女学園大学生活科学部管理栄養学科教授
西口 修平 氏(司会) 兵庫医科大学内科学肝胆膵科教授
加藤 章信 氏 盛岡市立病院院長
久保木 真 氏 倉敷成人病センター肝臓病治療センター部長

食事指導の基本は「適正カロリー,適正蛋白」へ

西口 近年,肝硬変における栄養療法は大きく変化しております。そこで本日は,栄養療法の最新の考え方やBCAA補充療法のポイントについて,この分野の第一人者の先生方に集って頂き,討議してまいりたいと思います。まずはインスリン抵抗性と肝疾患の関係について,ご説明をお願いいたします。

加藤(章信) 肝疾患患者には高頻度に耐糖能異常が認められており,その成因としてインスリン抵抗性が推察されています。現在では,肝疾患患者における耐糖能異常は肝内の脂質代謝障害を惹起し,これにより炎症が亢進することで肝癌の発癌リスクが高まると考えられています。

加藤(昌彦) 国内外の疫学的調査の結果,糖尿病は肝癌の発癌リスクを高めることが分かっています。また,アメリカ人男性を対象にした検討では,BMI ≥35の群は18.5≤BMI<25の群に対し,肝癌による死亡の相対危険度が4.52倍と報告されており,肥満と肝癌の関連も問題となっています(図1)。

図1

西口 このように,インスリン抵抗性や肥満が肝疾患の進展に寄与することが明らかになり,Patekが提唱した「高カロリー,高蛋白」を主眼とした食事指導は見直しを迫られています。そこで,肝硬変患者の栄養摂取状況ならびに,食事指導の最近の考え方についてお聞かせください。

久保木 われわれの施設で慢性肝炎患者265例の栄養摂取状況を年齢階層別に検討したところ,平均値ではほぼ十分に栄養摂取が行われていることが分かりました(表1)。

表1

加藤(章信) 肝硬変患者の栄養摂取量は,約10年前には過剰・適正・不足がおおむね均等に分布しておりました。ところが近年では,BMI 25以上の肥満を伴う肝硬変患者が増加傾向にあり,栄養摂取量が以前に比べ過剰になっている可能性が考えられます。

加藤(昌彦) 現在の日本人の食生活を考慮すれば,栄養指導は「高カロリー,高蛋白」ではなく,「適切なカロリー,適切な蛋白」に置き換える必要があると思います。代償期の肝硬変患者は健常人とほぼ同様の食生活が可能であるため,耐糖能異常や肥満を伴った患者さんに対しては,食事摂取が過剰にならないように指導することが,むしろ有用であると言えます。一方,非代償期では十分な食事を摂れない患者さんをしばしば経験しますので,不足した栄養素をBCAA製剤や肝不全用経腸栄養剤などで補っていくことが望ましいと考えます。

インスリン抵抗性,酸化ストレス改善を介したBCAAの肝発癌抑制作用

西口 BCAA製剤は非代償期肝硬変において,血清アルブミン値の改善効果,そしてアミノ酸インバランス改善を介した肝性脳症の治療効果が明らかになっていますが,最近では肝発癌抑制への期待も持たれています。LOTUS試験の層別解析では,男性のC型肝炎ウイルス(HCV)陽性例,エントリー前のAFP 20ng/mL以上の症例,およびBMI 25以上の症例において,BCAA製剤が食事指導のみの群に対して肝癌を有意に抑制することが示されております。こうしたエビデンスによりBCAAには肝発癌抑制という新たな有用性が示唆されていますが,発癌抑制のメカニズムについてはどのように考えられているのでしょうか。

加藤(昌彦) BCAAによる肝発癌抑制作用のひとつの要因として,インスリン抵抗性の改善が考えられています。BCAAはインスリン受容体とは別経路でグルコーストランスポーター(GLUT4)を細胞膜の表面に移行させ,グルコースを細胞内へ取り込むことが報告されています。さらにmTORを介してグリコーゲン合成酵素であるGlycogen synthase(GS)を活性化させ,細胞内に取り込んだグルコースをグリコーゲンに変換することも示されています。
 また,肝硬変患者ではアルブミンの半減期が延長しています。そのため酸化型アルブミンの比率が高くなり,抗酸化能の低下が発癌リスクを高めるとも考えられています。近年の研究では,BCAAが酸化ストレスを低下させることが報告されており,このことも肝発癌抑制に寄与していると推察されます。なお,BCAAがアルブミンに与える影響を見た検討では,BCAA顆粒製剤の投与により還元型アルブミンが有意に増加することが示されました。さらにBCAA顆粒製剤は,酸化ストレスマーカーである8-OHdG(8-ヒドロキシデオキシグアノシン),8-IsoPs(8-イソプロスタン)を,いずれも有意に低下させることも報告されています(図2)。
 これらのことから,BCAAはインスリン抵抗性および,酸化ストレスの改善を介した肝発癌抑制作用を有すると考えられています。

図2

西口 肝癌患者に対するBCAAの有用性についてはいかがですか。

加藤(章信) 肝癌の予防も重要ですが,肝癌は再発率が高く,肝癌患者の栄養状態の維持も重要な問題になります。香港のPoonらは,肝動脈塞栓術(TAE)を施行した肝硬変合併肝癌患者に対するBCAA製剤の効果を検討しました。その結果,BCAA製剤投与群では,血清アルブミン値の低下が対照群より有意に抑制され,総ビリルビンの上昇も有意に抑制されました(図3)。肝癌症例に対するBCAAの有用性は,今後さらに検討する意義があると思います。

図3

肝発癌抑制を見据えたBCAA早期投与への期待と課題

西口 これら最近のエビデンスを踏まえたうえで,今後のBCAA補充療法に期待されることはおありですか。

加藤(昌彦) 肝発癌抑制までを視野に入れるならば,BCAA早期投与が新たな展開となる可能性があります。肥満例やBTRが低下傾向にある症例に対し,食事制限を励行したうえでBCAAを早期投与することにより,QOLや予後のさらなる改善効果が期待できると思います。

久保木 BCAA顆粒製剤の適応は,血清アルブミン値3.5g/dL以下です。その時点では既にアルブミンの半減期は延長しているため,BCAA早期投与によってアルブミン代謝の改善が期待できると思います。しかしながら,現状では早期投与の適切なタイミング,あるいは具体的な投与量について判断することは容易ではないため,今後のエビデンスの集積が待たれます。

加藤(章信) われわれの検討では,軽度の浮腫発現時を非代償性肝硬変の目安のひとつとした場合に,その時点での血清アルブミン値は3.5g/dL,プロトロンビン時間は60%,血小板は10万であったことから,BCAA顆粒製剤の早期投与を検討する際は,これらの数値が投与開始の目安になると思われます。

西口 BCAA製剤の投与量について,先生方が何か工夫されている点はありますか。

加藤(章信) BCAA顆粒製剤を12g投与し,有効性が見られない場合は保険の適応上の問題はありますが,症例に応じて肝不全用経腸栄養剤を上乗せすることがあります。これにより浮腫,腹水などの臨床症状の改善が見られる症例も経験しておりますので,総カロリーや総窒素量,総蛋白量などを把握したうえで,BCAAの上乗せを検討する価値はあると思われます。

医師と管理栄養士との連携が栄養療法の進歩には不可欠

西口 肝硬変患者に対して効果的な栄養療法を実践するには,医師と管理栄養士との連携も重要になります。先生方のご施設ではどのような形で管理栄養士との連携をはかっておられますか。

久保木 当院では,血液検査による病態の把握と並行し,InBodyによる検査で患者さんの栄養指示量を決定しています(図4)。そのうえで医師と管理栄養士が治療方針を検討し,その後は管理栄養士が栄養療法を担う流れとなっております。
 今後,栄養療法が進歩するためには,われわれ医師は薬剤を,管理栄養士の方々はエビデンスのある食品を処方する流れを確立することが求められていると言えます。その意味では,肝疾患領域において,管理栄養士の方々のより一層の活躍が期待されます。

図4

加藤(章信) 管理栄養士の方々には,患者さんの食事指導のみならず,いわゆる健康食品の摂取状況についても把握していただきたいと思っています。こうした問題に対しては医師が十分に説明の時間を取れない場合がありますので、食事指導の際などに,必ず患者さんに健康食品の摂取の有無を確認するような工夫をしていただくことにより,より有効な栄養療法を行うことができると考えています。

西口 健康食品の問題点のひとつに,鉄の摂取が挙げられると思います。鉄は肝疾患の進展に寄与すると言われており,栄養療法では制限する方向にあります。その一方で,ウコンや青汁等の鉄を多く含有する健康食品が広く摂取されている現状は,医師の側からも問題提起していく必要があると思われます。

久保木 やはりエビデンスの乏しい健康食品には注意をしていただき,エビデンスのある食品については管理栄養士と相談し,食事とのバランスを考慮して摂取を検討することが求められていると言えます。

西口 本日は肝硬変における栄養療法について,BCAAに関連した最新情報が幅広く取り上げられました。先生方には,示唆に富むご討議をいただき,誠にありがとうございました。

本ページはテルモ株式会社の提供です

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